山田純嗣 / Junji Yamada
名画の空間構造を読み解き、実際に石膏やジェッソ、針金、樹脂粘土や木粉粘土などで空間的な立体を制作。それを写真に撮影し、版を起こして定着したイメージに細密なドローイングを銅版で重ねるという「インタリオ・オン・フォト」と呼ぶその技法でストイックさとポップさを併せ持つ独自な作品世界を展開する。
主な経歴
- 1974 長野県飯田市生まれ
- 2000 愛知県立芸術大学大学院美術研究科研修生油画専攻修了
- 2022 令和4年度文化庁新進芸術家海外研修制度によりフィンランドに滞在
- 主な個展
- 2022 絵画をめぐって あることとないこと(不忍画廊 / 東京)
- 2021 絵画をめぐって 花と花瓶(AIN SOPH DISPATCH / 名古屋)
- 2020 絵画をめぐって - 点景 -(不忍画廊 / 東京)
- 2018 絵画をめぐって - 影のない II -(AIN SOPH DISPATCH / 名古屋)
- 2018 絵画をめぐって - 2・3・2 -(日本橋髙島屋美術画廊X / 東京)
- 2017 絵画をめぐって - 影のない -(不忍画廊 / 東京)
- 2015 空白の触覚(AIN SOPH DISPATCH / 名古屋)
- 2015 絵画をめぐって(Bunkamura Gallery / 東京)
- 2014 絵画をめぐって 反復・反転・反映(不忍画廊 / 東京)
- 2014 絵画をめぐって 理想郷と三遠法(一宮市三岸節子記念美術館 / 愛知)
- 主な展覧会
- 2023 美術と風土 アーティストが触れた伊那谷展(飯田市美術館 / 長野、辰野美術館 / 長野、豊中市立文化芸術センター / 大阪、白沙村荘 橋本関雪記念館 / 京都、碧南市藤井達吉現代美術館 / 愛知)
- 2022 ひみつの花園-Our secret flower garden-(東大阪市民美術センター / 大阪)
- 2022 軌(わだち)をたどる――5人の画家たちの「あれから」(清須市はるひ美術館 / 愛知)
- 2021 絵画の証Ⅲ -東海版-(TEZUKAYAMA GALLERY / 大阪)
- 2019 情の深みと浅さ(ヤマザキマザック美術館 / 名古屋)
- 2019 アイチアートクロニクル1919-2019(愛知県美術館 / 名古屋)
- 2018 めがねと旅する美術展(青森県立美術館、島根県立石見美術館、静岡県立美術館)
- 2018 □△◯-まるさんかくしかく-(島根県立石見美術館 / 益田市)
- 2016 BIWAKO BIENNALE 2016 見果てぬ夢 Eternal Dream(滋賀県近江八幡旧市街)
- 2016 第2回 PATinKyoto 京都版画トリエンナーレ2016(京都市美術館)
- 2013 アイチのチカラ! 戦後愛知のアート、70年の歩み(愛知県美術館)
- 2012 ポジション2012 名古屋発現代美術 この場所から見る世界(名古屋市美術館)
- 2010 第29回損保ジャパン美術財団選抜奨励展(損保ジャパン東郷青児美術館)
- 2009 ―Life & Art ―「版で現す」(東広島市立美術館)
- 2006 VOCA2006 現代美術の展望―新しい平面の作家たち(上野の森美術館)
- 主な受賞歴
- 2016 第2回 PATinKyoto 京都版画トリエンナーレ2016 一般財団法人ニッシャ印刷文化振興財団賞
- 2010 平成21年度愛知県芸術文化選奨《文化新人賞》受賞
- 主なパブリックコレクション
- 名古屋市美術館(愛知)
- 上海半島美術館(中国)
- 愛知県美術館(愛知)
- 国立台北藝術大学関渡美術館(台湾)
- 東京ステーションギャラリー(東京)
- 浙江省美術館(中国)
- 国立台湾美術館(台湾)
- 清須市はるひ美術館(愛知)
- 上山田文化会館(長野)
- 桜ヶ丘ミュージアム(愛知)
- 神奈川芸術文化財団
(21-17) VASE OF FLOWERS
ポリコートパネルに印画紙、樹脂(インタリオ・オン・フォト)
30×21.5cm、2021年
【Artist Statement】
花と花瓶
シモーネ・マルティーニの《受胎告知》は、私にとって特別な作品の一つだ。フランボワイヤン式の教会堂のファザードのような、華麗なゴシック式の金の額縁が目をひくトリプティク(三連祭壇画)である。大学2年のとき、私はこの作品をヒントに作品を作った。当時の愛知芸大の油画専攻は、1,2年時といえば、毎回裸婦モデルを描く課題ばかりであったが、大学2年の半ばになって初めてモチーフのない課題が出た。私はそれまで避けてきた主体的に描くことに向き合わざるを得なくなり困り果てた。「描きたいものがない。でも絵は好きだ。でも、絵って何だろう」と考えるようになった。そこで思い出したのがこの《受胎告知》だった。昔見た初期ルネサンスの画集の中で一際目立って印象に残っていたこの作品は、なぜ他と違っていたのだろうか。画集の絵というのは、通常、絵のみを切り取っているので、そこに絵そのものの物質性は感じない。しかしマルティーニのこの作品は、額縁まで載っていて、画面の中には額縁の影もはっきり写っている。これは平面なのか、立体なのか。絵はイメージである以前に物質なのだ。そんなことを思ったのだろう。絵が描けなくなっていた私は、それをきっかけにゴシック式の額縁のレリーフを作ってその課題を乗り切り、以降絵の周縁から絵について考えるようになった。私の中の絵と額縁とは、実際の絵と額縁だけでなく関係としての話であり、額を使用しない近・現代絵画でいえば、ホワイト・キューブの空間が額縁になるだろうし、フレスコ画なら聖堂が、洞窟壁画なら洞窟、アースワークなら大地、東洋の絵なら、軸や屏風、衝立、ふすまのある空間が額縁なのだ。
花は絵、花瓶は額縁。花をモチーフにした作品を作りながらそんなことを考えた。