“ fountain blue (ツユクサ) ” ツユクサ、インク、額 2016年

花摘みのゆびさきが羽

伊藤正人


2016/12/03(土) 〜 2016/12/17(土)
13:00〜21:00 水曜休



Artist Comment


 初夏から秋のころにかけて、湿っぽい風景の陰にツユクサが咲いている。水溶性で退色しやすいという性質から友禅染の下絵を描く際の絵具にもなる花びらの青い色素は、水にさらした万年筆の筆先からゆらぎながら溶けていくロイヤルブルーのインクとどこか重なってみえる。花びらをつまんでみるとインクが付着したときとおなじようにゆびさきが青く滲み、そのやわらかい感触は鳥の羽を持ったときの感覚を思い起こさせる。

 長さ約30センチ、幅7〜8センチくらいの一片のクマタカの羽。ふわっと宙を扇いでみると、空間を振るしなやかさにじぶんのからだが飛んでいくのではないかと思えるほど、水面を撫でるような風が立つ。いつもつかっている万年筆が重すぎたのかもしれない。

 ぽちゃん、とインクの水中にゆびさきを浸ける。万年筆のように細くて繊細な線を引けるわけではないけれど、書き癖というものはすでにこの末端に宿っていて、じぶんの表情や性格を安定させるため、あるいは誇張させるための筆記具だったのかもしれないと思うと、ゆびさきはすこしぎこちなく、しかしいつもより大胆に、文字や記号以前にあったはずの言語そのものをさがしはじめる。やがて描くことと書くことのあいだをさまようのは、絵を描きたいわけではないじぶんにとって必然ではあったけれど、どちらにも振り切れないまま、描くことと書くことの中間を真っ青に塗りつぶせば、余分な言葉もきえていく。

 ゆびさきがロイヤルブルーに染まって、途中で煙草を吸ったり、珈琲を淹れたり、トイレへいったり、台所で料理をしているうちに家のなかのところどころが青くなっていく。机、壁や床、照明のスイッチ、ドアの把手。ぱたぱた、ぱたぱたと、そこに鳥の飛跡か、明け方の風に花ひらくツユクサがあらわれていくようでもある。

伊藤正人 | Masato Ito


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