unbound book(サンルームのひとびと/note house)| 刷り取り、インク | 545×790mm | 2022年
伊藤正人
2022/06/04(土) 〜 2022/06/25(土) 10:00〜12:00 / 14:00〜18:00 木曜休
本展覧会は作品の性質上、開廊時間が10:00-12:00 / 14:00-18:00になります。12:00-14:00は閉廊です。
通常の開廊時間と異なりますので、お間違えのない様、皆さまのご来廊お待ちしております。
Artist Comment
「これは詩ですか」と訊かれることがある。そういうときはきまって「いえ、これはただの文章です」と答えていた。
壁に書く文章の内容がなんでもいいというわけではない。ひとと風景が向かいあったときにうまれる矛盾のようなものとして、言葉があった。あるいは言葉そのものを閉じるようにインクで物や空間の一部を塗ったり、道端で摘んできたツユクサを押し花にしたこともあった。
美術とはべつの切り口で風景をとらえるものとして小説を書いてきた。ずっとあたためていた風景の記憶のなかにふときまぐれのように人物があらわれ、かれらが動いたり会話をすると時間軸がうまれる。恣意的につみかさねた断片のつらなりをばらばらにほどき、溶かし込み、そこから時間をかけて手繰りよせ、紡ぎあげた風景が物語になっていく。
ツユクサを摘むシーンを小説に書いたことがあった。指の腹がインクにふれたときとおなじように青く染まる。毎年、初夏から夏の終わりごろまで花をつけ、秋に落ちた種が翌春にふたたび萌芽する。虚構と現実を行き来しながら、我が家の狭いベランダでツユクサを育てはじめて数年が経った。
じぶんの美術も小説も、ツユクサも、もどかしいほど青々しく、たまたま水性で、光に弱く、色褪せる。ツユクサにいたっては午前中のみ開花といういじらしさ。そういえば小説を書くときも朝のほうが言葉はいくぶん水々しい。
こうしてじぶんのやってきたことを繰りかえすうちに「これは小説です」とすこしは言えるようになってきた。
伊藤正人 | Masato Ito